
木下映画の内奥に輝く秘められた〈愛〉の形
「この本を書いて叱られるなら監督本人に叱られたかった…」
1998年暮れに他界した巨匠・木下惠介の多面的世界に肉薄する気鋭の書き下ろし。木下作品49本のうち、いままで語られることの少なかった『わが恋せし乙女』『少年期』『惜春鳥』など12本を詳細に見直し、まったく新しい木下像を構築する。
叙情、優しさ、感傷という言葉で評価される木下監督と作品において、評価されていても論じられることが少なかったか、もっと別の視点で論じ得ると思われるもののなかで、〈弱き男たちの美しさ〉を主要な主題やその特質を具体的に含んでいると思われる作品12本をとりあげ、冷静に分析、論じている。
| 石原郁子(いしはらいくこ) |
映画評論家。1953年、神奈川県生まれ「キネマ旬報」などに映画批評を書く。著書に『アントニオーニの誘惑』(筑摩書房)『菫色の映画祭』(フィルムアート社)がある
「男はつらいよの世界」「山田洋次の世界」の著書が松竹大船にこだわりつづける作家論第2弾。
木下監督の映画とともに青春時代を過した“映画いのち”であった著者が高校教師となってから木下監督と直接会う機会を得て、本書を書くに至った。発展期、高揚期、混沌期、復活期に分類し、教育者の視点から純粋に木下惠介を綴っている。脚本家としての監督の評価も忘れていない。
| 吉村英夫 (よしむら ひでお) |
1940年三重県津市生まれ
1982年三重県文化奨励賞受賞
著書『男はつらいよの世界』『山田洋次の世界』(以上シネ・フロント社)『女子高生と紙でっぽう』(1983年草土文化)
2006年6月、松竹大船撮影所は山田洋次監督『十五才 学校Ⅳ』の撮影を最後に閉鎖。
“家族”を描いて日本映画の主流を走りつづけた松竹大船64年の栄光と挫折を検証し、二十一世紀へ向けての新たな胎動を探る。
松竹大船の65年の歴史を小津、木下、山田太一、山田洋次でそれぞれ「起」「承」「転」「結」的な役割と捉え、四人が「家族」をどう描いたかを切り取り「大船の系譜」をたどっている。日本映画史を形成する重要な役を担ったひとりとして木下監督が語られている。
| 吉村英夫 (よしむら ひでお) |
映画評論家。1940年、三重県津市に生れる。早稲田大学で映画研究会に所属、卒業後、三重県立高校で30余年間、国語教員を務める。授業の実践から、「一行詩」を提唱。停年をまたずに退職し、以後、映画史研究のかたわら三重大学で、講師として映画論を講じる。主な著作は、『ローマの休日 ワイラーとヘップバーン』(朝日文庫)、『木下惠介の世界』(シネ・フロント社)、『完全版 男はつらいよの世界』(集英社)、『君はこの映画を見たか!』(大月書店)、『一行詩・父よ母よ』(学陽書房)、『一行詩・ああ青春』(講談社)など。
HPアドレス http://www.ztv.ne.jp/yoshaiyn/
クロサワ、ミゾグチ、オヅのあと、世界が発見するのはキノシタだ!
天才監督の謎多き素顔と全四十九作品に迫る、著者渾身の傑作評伝。
ジャーナリスト、映画評論家、直木賞作家のキャリアを持つ筆者は、周到な取材と調査の裏打ちをもって木下惠介の映画作品と幼少期から亡くなるまでの生涯を数々のエピソードを盛り込みながら語っている。また映画監督の経験から映画作品についても木下監督の技巧的な部分にも触れている。
| 長部日出雄 (おさべ ひでお) |
1934年弘前市生まれの長部日出雄は、フリーライターを経て、昭和45年、小説に専念するために帰郷。以来2年4箇月の間津軽を歩きまわりながら綿密な取材を重ね、昭和47年津軽書房より第一創作集『津軽世去れ節』を刊行する。翌48年、第一創作集『津軽世去れ節』所収の「津軽世去れ節」「津軽じょんから節」で第69回直木賞を受賞した。
やさしさと思いやり
叙情と反戦の巨匠と言われたその実像をさぐり、日本が経済成長で失った大切なものを考える。
木下監督が亡くなってのち、すぐ書かれた著書。「黒澤明伝」をすでに出版している著者が、木下監督についての評伝や作品論が少ないことに異議を唱え執筆。黒澤明をところどころで引き合いに出しながら、昭和の日本映画史を飾る巨匠の再認識として木下惠介の作品と生涯を書いている。
| 三國隆三 (みくに りゅうざ) |
1928年生まれ。青森県出身。東京大学卒業。講談社に入社、学芸・美術・音楽などの編集者をへて文筆生活に入る。別名・あすな峡平
著書には、『黒澤明伝―天皇と呼ばれた映画監督』、『ある塾教育―大東亜戦争の平和部隊』(以上展望社)、『だませ!―ニセモノの世界』、『逃げろ!―世界脱獄・脱走物語』のほかに、ミステリーガイドとして『危機管理のミステリ』、『消えるミステリ』(以上青弓社)、『誘拐トリックス』(三一新書)などがある。
2部構成で、前半は映画作品のスチール写真(映画のワンシーン)をふんだんに使って紹介。後半は、作品の解説、製作当時の時代背景、監督の製作意図とテーマへの思いなどが書かれている。監督が現役の時代に出版された著書なので、追悼や伝記の趣ではなく、現在進行形の木下惠介映画論となっている。それ故、作品紹介が47点で「この子を残して」が最新作となっている。
| 佐藤忠男(さとう ただお) |
1930年、新潟県生まれ。「映画評論」「思想の科学」編集長を経て、62年映画評論家として独立する。以降映画を中心に、演劇、文学、大衆文化、教育と幅広い分野にわたり執筆活動を展開。「日本映画史」(全4巻)、「日本映画の巨匠たち」(全3巻)「世界映画史 上下」など代表作は多数だ。勲四等旭日小綬章、紫綬褒章、芸術選奨文部大臣賞、韓国王冠文化勲章、フランス芸術文化勲章シュバリエ章等数々の賞を受賞。
これは見事な追悼の書である。
敬意と哀惜に満ちていながら、面白い。映画界の記録としても作家論としても、監督と三十五年交際のあった著者でなければ書けない貴重な一冊だ。ありがたい本が出た。山田太一
木下監督の助監督であった著書の体験と監督との対話や発言をもとに書かれた木下論。作品解説や評論ではなく、師匠、人としての木下惠介が語られている。生前、監督が著者に残した「誰かが死んだあと、その人のことわけ知り顔に書くなんてことけっしてするんじゃない」という遺志に反し、あえて出版したと著者は語る。
| 横堀幸司(よこぼり こうじ) |
1935年生まれ。早大文学部卒。1961年松竹に助監督として入社。木下惠介監督に師事し、『なつかしき笛や太鼓』『衝動殺人 息子よ』『新・喜びも悲しみも幾歳月』などのチーフ助監督をつとめる。「木下惠介アワー」のテレビ映画監督として『おやじ太鼓』『二人の世界』などを演出。1990年松竹を退社。現在フリーの脚本・演出家。著書に小説『ぼくは女優と恋をしたい』(イースト・プレス出版)がある。
よみがえる郷愁の昭和
木下惠介の映像作品をつらぬく愛と真実を描き出す
「二十四の瞳」「カルメン故郷に帰る」「喜びも悲しみも幾歳月」などの作品で知られ、戦後の日本映画黄金期を代表する巨匠、木下惠介。木下監督が描いた、人間の絆とは、無償の愛とは、一体どのようなものであったか。その作品を詳細にたどりながら、監督の稀有な才能の軌跡と、失われつつある昭和の風景をよみがえらせる。
昭和の時代と多くを自らの人生と重ねる木下監督は、平凡な暮らしを打ち砕く外からの暴力への憤りが映画作品の創作動機となっている。さらに、筆者は木下作品の映像の美しさは無償の愛、報われない愛、母の愛などの「愛の痛み」が表現の根底にあるのではないかと考え、木下作品を解き明かすことを試みている。
| 佐々木徹(ささき とおる) |
1941年生、大阪生まれ。追手門学院大学国際教養学部教授。著書に『知と愛』『美は救済たりうるか』『魔的なるもの―美と信の問題』(創文社)『東山魁夷』(美術出版社)『悲の思想』『西谷啓治―その思索への道標』『西谷啓治随聞』(法蔵館)『こころの橋』『愛と別れについて』(人文書院)『東山魁夷ものがたり』(ビジョン企画出版社)『さりげなく』(求龍堂)ほか、編集・解説に『東山魁夷自選画文集』全5巻(集英社)『西谷啓治正法眼蔵講話』全4巻(筑摩書房)などがある。
今、なぜ「二十四の瞳」なのか?
不朽の名作に出演した子役たちのその後の生き方を通して、いまや失われつつある日本人の原点を見据える。
映画「二十四の瞳」の成功は素人の子役を使ったことにある。12組24人の兄弟姉妹は、出演後、「役名」でお互いを呼び合い、交流を続けた。だが、だれ一人、芸能界に進むものはおらず周囲の思惑に左右されずに、ぶれることなく自分の望む人生を歩んだ。
「五十年目の再会」の新聞記事がきっかけとなり、筆者を「二十四の瞳」を今に伝える執筆に向わせた。木下監督の不朽の名作である本作の力と木下監督のメッセージが今に力をあたえ、日本が失ったものを教えてくれると考え、さらに、当時の子役の人生も追いかけることで今に生きる「二十四の瞳」を強く描いている。
| 澤宮優(さわみや ゆう) |
ノンフィクションライター。1964年熊本県生まれ。青山学院大学文学部卒業、早稲田大学第二文学部卒業。現在はサラリーマンの傍ら著作活動を行っている。2003年に『巨人軍最強の捕手』(晶文社)で、第十四回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。主な著書に『打撃投手』『炭鉱町に咲いた原貢野球』『放浪と土と文学と』『プロ野球・燃焼の瞬間』『後楽園球場のサムライたち』(いずれも現代書館)などがある。
昭和映画黄金期を築いた巨匠二人のデビューから半世紀を経て今日に至るまでの足跡を特集。俳優、映画関係者のインタビューを中心に、若き日の木下監督と黒澤監督の往復書簡、対談など充実した内容から二人の映画哲学、人物像が見えてくる。