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指揮者 イルジー・ビエロフラーヴェク


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2015年11月2日開催 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団出演

©Václav Jirásek

マエストロとチェコ・フィルとは、長い関係を築いておられます。1990年に首席指揮者に就任され、その後、3年前の2012年に復帰されています。20年余の歳月を経てオーケストラの中に進歩を認めますか?
はい、大きな変化があったと思います。長い年月を経て時代の状況も変わりましたが、やはりなんといっても、いまオーケストラを構成しているのはとても若いメンバーたちだ、ということです。世代交代がなされました。そしてその新しい世代のメンバーたちの質はすばらしいものです。ですが同時に、中堅のよい奏者をキープしておくことも大事です。そこでなされるべき作業は、まえの世代とつぎの世代にまたがって同じクオリティの音を伝えるという事。これは、非常に注意を要する作業です。ターリヒ、ノイマン、アンチェルなど、伝説的な指揮者たちが築き上げ、私たちが受け継いできた音のクオリティを、変えてはならないからです。



正直に伺いますが、若い世代の演奏家たちは、素直に伝統を受け入れますか? 彼らはむしろその情熱故に、先に進もうという気持ちが強すぎて、新しいことに目が向きすぎたりすることはないのでしょうか?
そのような心配を感じたことはないですね。全員が協調してとてもまとまりのあるカンパニーなのです。こんにちの若者の演奏テクニックはほんとうに素晴らしいです。けれども、たとえば彼らがそこに甘んじて、伝統を軽視するようなことはないですね。また、若い世代は現代音楽への取り組みにも熱心ですが、そのような彼らの姿勢がむしろ年配の世代への刺激になってくるのです。
まさに相互作用です。

それは、とても喜ばしい現象ですね。ひとつのオーケストラには、そこに当然のことながら現役の奏者で年配者と若者がいるわけですが、たとえば、なにか特殊な楽器の場合など、すでに引退されたメンバーが、後進の指導のために現場に足を運ぶようなこともあるのですか?
ええ、ありますよ。ただそのような場合は、具体的に「ああしなさい、こうしなさい」という現場での直接指導というよりは、「さっきの演奏を聴いていて思ったけれど、こんなふうにやってみてもいいんじゃないのかな?」というような、やや距離を置いた、若者の自主性を重んじたうえでのアドバイス、という感じです。節度を保ちながら、しかし欠いてはならない伝統の部分は、それはしっかり伝えよう、というね。若者たちは、もちろん過去の録音を聴きながら勉強することはできるのです。でも、他でもない自分の担当のパートを、その道を過去に究めた人物たちからマン・ツー・マンで指導してもらえる…これは非常によいことです。貴重な体験になります。

いまもすでに進行中の、この「伝統維持」と「相互理解による発展」が保てるのなら、チェコ・フィルの未来は輝かしい、と言えるでしょう。ここでメンバーたちが吸収しようとしているのは、まさに「現代性」と言えるものだと思うのですが、それが、いまの音楽の世界に求められていることだからです。世界の聴衆がわれわれの奏でる音楽に魅力を感じてくれるかどうかは、そこにかかっているのですから。

© Martin Kab

© Martin Kab

© Czech Philharmonic

この秋はベートーヴェンの交響曲第5番を聞かせていただきますが、選曲の意図はなんですか?
この曲は、それぞれの作曲家の代表作と見なされていますよね。選曲するにあたっては、私たち演奏する側からの希望と、お客様がなにを聴きたいと思っておられるのか、その両方を考慮して決めています。今回、こちらからも多くの希望を出し、観客のみなさまから寄せられたお声にも配慮し、最後に企画の責任者のアドバイスを間にはさんで、このような選曲になったのです。東京では11月のNHK音楽祭でスメタナ「わが祖国」全曲の演奏も予定されているので、力が入りますよ。


ちょうどお話が出ましたので、スメタナの「わが祖国」について伺いたいのですが、今回、NHK音楽祭では全曲、また、他都市の公演では部分的に「シャールカ」、「ボヘミアの森と草原から」などを演奏されますけれども、この自国の代表的音楽作品にこめる特別な思いがおありですか?
もちろんです。この「わが祖国」は6つの部分から成る連作交響詩ですが、第2曲の、チェコ語では「ヴルタヴァ Vltava」が、有名な「モルダウ The Moldau」ですね。全体を通して楽しむ聴き方もできるし、それぞれの曲を独立させて楽しむこともできます。「モルダウ」では、ヴルタヴァ川の流れに沿ってボヘミアの美しい光景が描かれてゆきます。雄大な川の流れ、森や草原、そこで農民が結婚式を挙げ、みんなでダンスを踊って楽しむ光景が彷彿としてきます。この曲の結びはとても壮大です。また「シャールカ」は、民間の古い伝承を音楽に移したもので、ある女性の悲劇の物語です。心に痛手をもつ女性が、森にひそみ、騎士たちにその悲劇の復讐をするーという物語なのですが、非常にドラマティックな音楽です。「ボヘミアの森と草原から」は、リリカルなメロディにあふれており、ここにもフォークロアの舞踊曲が入っています。みなさんよくご存知の「ポルカ」、これは、チェコのダンス音楽なのですよ。スメタナは、活力と詩情あふれる「祭り」の場面におおいに芸術的な刺激を受けたようです。「シャールカ」が起承転結のあるドラマであるのに対して、「モルダウ」と「ボヘミアの森と草原から」は、風景画の趣です。

一曲ずつ、たしかな構成の上に成り立っているので、その一曲だけをじっくり聴く方式でも充分楽しむことができます。そしてさらに素晴らしいのは、それらが連曲としてさらに大きな構成になったときに、全体としてのまとまりを見せている点です。このようなすぐれた構成を持つ楽曲は、ほかにそれほど例を見ませんね。

© Petra Hajsk

おっしゃるとおり、いわゆる「連曲」「連作」という構造で、世界的に有名な楽曲がいくつかあると思うのですが、ひとつ前の曲を聞き損ねると、今きいている曲の意味や全体の流れが掴みにくくなってしまうものが多いと思います。
そうなのです。たいていは、そういうものです。ですがこのスメタナの「わが祖国」に関してだけは、そのような問題が起こりません。どの曲をピックアップしてもわかりやすいし、美しさが理解できます。全体を通して聴く場合には、終曲の「ブラニーク」によってどのように全体がクライマックスを迎えるかを、ぜひ注意してお聞きください。そこを味わえば、この「わが祖国」という連曲に現れている、スメタナの「二重構造の力」を理解できます。そしていずれの場合も、ひとつひとつの風景が見せてくれる美しさを存分に感じていただきたいのです。

まさに傑作ですね。
そう、傑作です。それから、ひとつだけ補足説明をします・・・あまり、楽しい情報ではないのですけれどね、スメタナは「わが祖国」の作曲期間に聴力を失い、終曲を書き上げる頃にはまったく耳が聞こえなくなっていたのです。指揮台にも立てなくなっていました。ですから、この曲を聞くとき、みなさんは、彼がどれほど想像力と神経を研ぎ澄まし、自身の作品を完全なものに仕上げる努力をしていたか、最後のオーケストレーションを完遂したか、ということに、思いを馳せていただきたいのです。その姿を想像してみることで、この曲にこめられた彼の思い、創造にかける彼の情熱に、近づけるのではないかと思うのです。

© Alexander Ivan

今回、ピアノのダニール・トリフォノフさんとはラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏なさいますが、共演に向けて一言いただけますでしょうか。
トリフォノフさんとはまだ共演したことがありませんが、素晴らしい才能の持ち主です。現在、最高の若手ピアニストのお一人だと思います。彼のプラハでの演奏を聴きましたが、じつに素晴らしかった。まさに「エクセレント、卓越した」という形容がぴったりです。彼には、高度な技術が身についているだけではなくて、楽曲のフィーリングをつかむ優れた感性が備わっています。

© Martin Kab

最後に、日本公演に向けてのメッセージを一言お願いいたします。
私は日本のどこで演奏しても、会場にいらっしゃるみなさん、周囲で働いているみなさんの真面目さ、温かさに感動いたします。そのお気持ちに応えるためにも、自分たちが入念な準備をしてツアーに臨まなければと思っていますよ。またお目にかかれるこの秋のツアーを、オーケストラ一同、心待ちにしております。

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団