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【ヴァイオリニスト】五嶋 龍


五嶋 龍 ヴァイオリン・リサイタル2018“忘却にして永遠に刻まれる時”で
8月1日(水)に初めての浜松公演を行う五嶋龍さん。
ファンサイト「RYU FRIENDS」では数多くの質問に答えている五嶋さんですが、
今回はこのホームページをご覧の皆様のために特別インタビューをお届けします。
取材・撮影:(公財)浜松市文化振興財団

音楽一家の中で自然にヴァイオリンと出会われたと思いますが、幼い頃からごく自然に演奏家になりたいと思っていたのでしょうか?

 演奏家になりたいと思う瞬間と練習がイヤでたまらない瞬間がある僕でしたから、演奏家になりたいとずっと望んでいたわけではありませんでした。これというきっかけはありませんが、ずっとやっているうちにいつの間にか真剣になり、色々と勉強する時間も増えてこの道に進んでいる、という感じです。もし演奏家ではないとしたら、宇宙飛行士、物理学者、空手家・・・いろんなものになりたかったですね。あ、空手は今もかなり熱心な方ですけれど、それを生業にしたいと思ったことがありました。

幼い頃から使っているヴァイオリン、サイズの小さいものから数えると、
今までに何本くらいの楽器を使用されたのでしょう。

あまり覚えていませんが、7~10本くらい使っているかもしれませんね。

空手は黒帯の腕前とお聞きしました。始めたきっかけは? 
また、五嶋さんにとっての空手の魅力はどのようにお考えでしょうか?

 僕の祖父と空手の師範が信頼関係にあったことが始めたきっかけです。小学校では体格が極小でいじめられっこだった僕を、精神的に強くするために、母が道場に連れて行ったようです。練習や試合結果が思うように行かなかったとしても、やめられない魅力があります。妥協せず自分の思った空手をしたいと思うが故に、それに近づくためにやめられないということですね。
具体的に言うなら、「体を使う」「強くなる」ということです。色々な知識や能力を得て、例えば人生のキャリアで成功したとしても、最終的に何もなくなった時、自分自身を守れるか。どんなに金持ちになっても、体は衰えて欲しくない。お金は自分を守ってくれるかもしれないけど、目の前に自分を殺そうとしている人がいたら、札束は守ってくれないし、他の人も守ってくれないし、自分の身は自分で守るしかないですよね。最終的には「体と精神しかない」という武術的な考え方が根底にあって、そのために精神と体を鍛えるということがひとつの夢なので、それを大事にしたいと思っています。生き方というか、自分の哲学が「サバイバリズム」にあって、美しいものやアートなども全部そこから出てきていると信じています。その中心に近いものが空手だと思うのです。

他にもご趣味でエレキギターを演奏されるそうですね。

 今はほとんど演奏していませんが、もっと上手くなりたいですね。あとは、DJに興味があるので、色々な電子音を操る楽器も使いこなせるようになりたいと思っています。

音楽活動以外にも起業されるなど活動範囲を広げています。
それらを両立するために心掛けていることは何ですか?

©Ayako Yamamoto / UMLLC

 時間配分を考えること、ストレスを溜め込まないこと、そしてよく眠ることです。

演奏活動とさまざまな取り組み、なかなかタイムマネジメントが大変そうですが、一日の練習スケジュールなどについて、細かく決めてから動く方ですか?

 スケジュールは立てても、中々そうはいきません。始めから“ずれ”の部分をスケジュールに入れ込まなくて、結果的に計画することはやって自分で自分の首を絞めているのではないかと思うときがあります。

昨年は日本のテレビ番組「題名のない音楽会」(テレビ朝日)の司会にも挑戦されました。その経験から何か得たものは?

 今の日本の音楽のファッション。そして、クラシックの音楽だけでは興味をそそられないであろう映像の向こうのお客様に対して話しかけ、演奏することは、それまでに無かったことです。そのシチュエーションで何をアピールするべきか、何ができるかなどを考えさせられました。

なるほど。最近は若者のクラシック離れや、聴衆の減少などが問題になっています。

 プレゼンテーションの問題だと思います。どのように披露するか、どのように人に伝えるかというのは、説得力がなくてはいけないと思いますので、今までと同じように“古い音楽”として伝えようと思っていては難しいのだと思います。やはり“生きた音楽”でなければいけませんから。作曲家が昔どう思っていたということは、ある程度面白いし興味深いかもしれませんが、“生きた音楽”ではないので、興味を失くしてしまう方もいると思います。私たちは“未来”に向かっているのですから、“過去”を振り返るのではなく、“未来”を見つめる音楽でないといけないですよね。ですから、例えばステージ上の構造を変える、コンサートホールでないところで演奏する、映画音楽にクラシック音楽を組み込むとか。ビジネス的には、チケット価格を安くしたり、もっとカジュアルにしたり・・・ハードルが高すぎると、入れない方もいると思うんです。1時間半のコンサートに、それだけのお金を出す価値というものを感じなくてはいけないし、初めて来る人にとっては、何を期待していいのか分からないはず。チケット価格やプロモーションの仕方も、“未来の音楽”にしていく必要があると思います。

具体的に何か対策は浮かんでいますか?

 考えはあっても、実現させていくのはなかなか難しいですね。ただ、すでに作曲家や映画監督、映画音楽の作曲家など、やっていらっしゃる方はいます。例えばピアニストのラン・ランなど、非常にクールに“未来の音楽”として演奏するアーティストもいるので、彼らのおかげでクラシック音楽は続いていくのではないかと思っています。

話を変えて、五嶋さんの音楽やヴァイオリンについて伺います。
日本では幼いころの様子がドキュメンタリーとなったテレビ番組が有名ですが、
「神童」と呼ばれていたときもありました。ご自身は自分のことをどんな人間だとお考えですか?

 意外と諦めが悪いということが最近わかりました。だめもとでも「やってみてから諦める型」。それだと後悔しませんから。

最近はご自身を「競争するのが好き」と分析していますね。
ヴァイオリンについては「目標としている自分像と競争している感じ」とのことですが。

 自分の演奏を演奏中に聴いていて「こんな素晴らしい音楽はない!こんな素敵な音色が聴けている」と満足感のあるヴァイオリニスト、もいいですね。聴衆にお伝えする前に、自分の納得した料理であることをわからないとね。いつも「昨日より今日の上達」と思って競争しています。勝つとは限りませんが。

コンサートの中での五嶋さんは、観客やオーケストラと目を合わせるなど、舞台と客席の垣根を越えた観客とのコミュニケーションを大事にしている印象を受けます。それは意識的に?

 この質問は嬉しいです。僕が演奏中に聴衆を見ることに「?」というか、なぜそんな表情をするか、と疑問をもたれていても直接質問されることはありません。今までにアメリカ人の一人に尋ねられましたが、ヴァイオリニストの方で僕のように聴衆を見る人がいないことのほうが、僕には「?」なのです。もちろん、演奏している音楽にのめりこんで、目を閉じて弾いたり、ニコッとしたり、リズムに合わせて体が動いたり、それぞれの動きを否定なんかできません。これらの動作は演奏にはまっているからそうなるのでしょうが、僕にはお客様を見ることにはそれなりの持論があります。
ロック、ジャズ、ポップシンガーは(オペラの中でもそんな場面がありますが)聴衆に歌いかけます。語り掛け方がほとんどのクラシック・・・ピアノ、チェロ、ヴァイオリン奏者などとは違いますよね。「出来上がったものをお聴きください」と「一緒に音楽を作り上げましょう」との違いかもしれません。僕はどちらかというと後者ですね。意識してそっちのスタイルを選んでいるのではありませんが、“生音、息遣いを聴き、楽しむ”だけではなく、“奏者とともに音楽をエンジョイする”ことがライヴの醍醐味でもいいと思いませんか?

クラシック音楽だけでなく、幅広い音楽に興味を持つ五嶋さんならではのお考えですね。
音楽に対するインスピレーションをどこから得ているのでしょうか。

 本とかインターネット。他には、実際にライヴを聴くこと、CD、ユーチューブ、夢などです。夢というのは、眠っている時に見る夢ですが、「このメロディいいな、弾いてみたいな」と思って、起きて気付くと、今まで聴いたことのなかったメロディだったりします。夢の中では、自分ではなく他の誰かが演奏しているのですが。自分のアイディアの中でそれが出てくることもありますね。

五嶋さんが生まれ育ち、現在も生活の拠点とするニューヨークでは、さまざまなコンテンツに出会えそうですよね。ご自身も「あらゆる分野の最高の物が手に入る環境」と表現されています。

 「手に入る」と言えば、今やもう世界中のどこにいても同時に同じもの、同じ容量を手に入れられるし、物品でもインターネットで売買されるのが日常。NY“だから”あらゆるものが手に入るのではなくて、NY“では”ということです。でも、ライヴに限って言えば、NY“だから”、といえるカテゴリーは多いですね。
今後住んでみたいのは、日本。空手の強豪が多いから。やっぱり、僕自身の血、もあるでしょう。

日本でのリサイタルツアーは3年ぶりです。普段は世界を舞台に演奏活動を行っている五嶋さんですが、
日本人というアイデンティティを感じることはあるのでしょうか。

 アイデンティティを感じることと日本人であると思うこととは少し違うように思います。
そしてそれはごく自然に身についているので、とりわけ大切にしようと試みたことはありません。

浜松での公演は初めてだと思います。浜松はうなぎやミカンが有名ですが、うなぎはお好きですか?

 まあまあかな?東海道新幹線の「のぞみ」は浜松で停まらないので、本場の浜松の駅弁にもありつかなかったですし・・・。でも浜松のうなぎは絶品だと聞いていますので、食べるつもりです。そうしたら病み付きになるでしょうか・・・? ミカンは食べません。理由は、目の前に出されないからです(笑)。

今回のプログラムについて教えてください。

 それぞれにストーリーがあります。シューマンの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番ニ短調op.121」は自分の内面との葛藤、ドビュッシーの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」は印象派の水彩画のごとく、自身をフランスのスピーチで、イサン・ユンの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」は外の世界へのメッセージ、だと思いました。ユンの生涯(他の作曲者もそうですが)、現代に未だ引きずっている理不尽な世界へのメッセージが、民族的な音質を使いながら西洋音楽に溶け込こんでいるところが興味深いです。

公演を楽しみにしている浜松の皆様へメッセージをお願いします。

 先ほどの質問とつながりますが・・・そういうわけで、特に公演後を楽しみにしています。ベストを尽くした演奏後でなくては気分良く「うなぎ」を食べられませんから、エネルギー全開で弾き切ります!

最後に、今年は30歳になる節目の年ですね。20代の10年を振り返っていかがでしたか?
30代の抱負について教えてください。

 20代は大学を卒業し、それまで与えられていた目の前の日課から解放され、待ちに待った自由な時間でした。しかし、いざ自分がスタートからゴールまでを計画してやり遂げようとしたとき、次の分岐点も速度指示もなく、いかに大変なことなのかを感じる連続でした。これからは、社会に泳ぎ出た経験を生かして、守る姿勢と攻める姿勢を上手く活用しながら、静かに上を見据えて前進したいと思います。

五嶋 龍 ヴァイオリン・リサイタル2018
忘却にして永遠に刻まれる時

2018年8月1日(水) 19:00開演 
●アクトシティ浜松 中ホール
●入場料(全席指定)
 S席 7,500円
 A席 6,000円
 B席 5,000円
 学生B席 2,500円(24歳以下)

公演の詳細は、こちらをご覧ください。