公益財団法人浜松市文化振興財団 Hamamatsu Cultural Foundation


アクトシティ浜松友の会 ビバーチェクラブ vivace club

プラハ国立劇場「フィガロの結婚」

2002年10月 1日
フィガロの結婚
2003年1月28日(火)18:30から大ホールで開催予定の「フィガロの結婚」。
優美で鮮烈、そして躍動感に満ちた音楽に乗ってユニークな登場人物が舞台上を駆けめぐる人間喜劇。美しく多彩なアリアとアンサンブルに彩られた全編見どころ聴きどころ満載のモーツァルトの最高傑作の魅力に迫ります。
伯爵夫人の居間  総合 芸術と言われるオペラにはいろいろな楽しみ方がある。もちろん、オペラや声楽についてある程度の知識があれば楽しみも倍増するが、だからと言ってそれが無 ければ分からないというものではない。あまり身構えずに、気楽に接することが何よりも大事だと思う。何度か劇場に足を運んでいれば、自然と自分に合った楽 しみ方が見つかるはずだ。まず 第一に、純粋に音楽そのものを味わう楽しみがある。「フィガロの結婚」であれば、わくわくするような軽快な序曲に始まり、主人公フィガロが歌う「もしひと 踊りなさりたければ」「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」、小姓ケルビーノの「恋とはどんなものかしら」、伯爵夫人の「愛の神よ、みそなわせたまえ」など、珠玉 の名アリアがここかしこに散りばめられている。天才作曲家の生み出した自由奔放で華麗な旋律を追っているだけで、だれしも至福の時を過ごすことができる。 アリアだけでも前もってCDで聴いておけば、劇場での生演奏がぐっと身近に感じられるだろう。

次に、 歌手の歌を聴く楽しみがある。徹底した訓練が要求されるオペラのベルカント唱法は、声量・音域・技巧の面で人類が生み出した最も優れた歌唱法の1つであ る。正確かつ力強い歌声は、歌詞の意味や感情表現といったレベルを超えて、聞く者の心に訴える。初めてオペラを見る人はまずその圧倒的な声量に驚かされる はずだ。「フィガロ」では、モーツァルトの流麗かつ躍動的な旋律を歌手たちがいかに歯切れよく軽やかに歌いこなすかが最大の聴きどころになる。

城内の大広間  第三 に、オペラは何と言ってもドラマである。この作品では身分の上下関係と恋愛をめぐる駆け引きがドラマの中心になっている。フィガロは伯爵に仕える召使いだ が、その伯爵が地位を盾に恋人スザンナを奪おうとする。そこでフィガロとスザンナ、そして夫の浮気を知った伯爵夫人が策略をめぐらし、伯爵を懲らしめると いう筋書きである。このようなオペラ・ブッファ(喜歌劇)の物語は、内容は単純だが話の展開がけっこう入り組んでいるものが多い。「フィガロ」の場合も、 人物の出入りが目まぐるしく互いの掛け合いも微妙である。さらに、小姓のケルビーノや女中頭マルチェリーナ、音楽教師バジリオなど多彩な脇役も登場する。 初めての人はプログラムのあらすじを一読しただけでは、なかなか頭に入らないかもしれない。

実は これには理由がある。当時のオペラ・ブッファの物語の多くがイタリアで大流行していたコンメディア・デッラルテ(仮面即興劇)を下敷きにしているためだ。 その登場人物には一定のパターンがあり、結末もたいていお決まりのハッピーエンドになる。当時の観客はそれを知っていたので、新しい作品でもおおよそどん な話になるか見当がついた。「フィガロ」の場合も、複雑な筋の展開よりむしろ登場人物とその関係をしっかり押さえておくと話が理解しやすい。

劇中 に登場するさまざまな演劇的仕掛けも、コンメディア・デッラルテの伝統を引くものだ。例えば、一幕でケルビーノと伯爵が交互にひじ掛け椅子の後ろに隠れる 場面がそうである。また、二幕で女性ソプラノ歌手が演じる男役ケルビーノが女装させられる場面、四幕でスザンナと伯爵夫人が互いに衣裳を取り替えて変装、 フィガロと伯爵がそれにだまされる場面なども見どころだ。

女装させられるケルビーノ 最後 に、多少オペラを見慣れてくると演出の違いを見るのも楽しみになる。最近のオペラ上演では衣裳を思い切って現代風にしたり、バイクやパソコンを登場させた りすることさえある。私自身は奇をてらった演出より人物の動きがしっかりした舞台のほうが好きだが、目新しい趣向もそれなりに面白い。これまでに見た 「フィガロ」の中では、ストレーレル演出のミラノ・スカラ座の舞台、スポレート音楽祭で上演されたメノッティ演出の舞台が印象に残っている。新演出で行わ れる今回のプラハ国立劇場公演もきっと素晴らしい舞台になるに違いない。
<静岡文化芸術大学 高田和文教授>

高田和文さん高田和文(たかだ かずふみ)
1951年生まれ。1974年東京外国語大学卒業、1977~79年ローマ大学留学、1980年東京外国語大学大学院修了。ナポリ東洋大学講師、在イタリ ア日本大使館専門調査員、東京大学講師、NHKテレビイタリア語会話講師などを経て、現在静岡文化芸術大学教授。専門はイタリア演劇・イタリア文化史。お もな著書に、「イタリアの味わい方」(総合法令出版、共著)、「話すためのイタリア語」(白水社)、NHKスタンダード40イタリア語(日本放送出版協 会)など。訳書・翻訳に、ウーゴ・ロンファーニ著「ストレーレルは語る」(早川書房)、ダリオ・フォー作「払えないの? 払わないのよ」(劇団民芸上演台 本)、ダリオ・フォー作「天使たちがくれた夢は…?」(劇団ドラマスタジオ上演台本)、カルロ・ゴルドーニ作「ミランドリーナ・宿の女主人」(劇団櫻花舎 上演台本)、アンドレア・ボチェッリ著「沈黙の音楽」(早川書房)など。1999年、すぐれた翻訳劇に贈られる湯浅芳子賞受賞。

こ の記事はアクトシティ浜松友の会「ビバーチェクラブ」2002年10月号に掲載したものです。「ビバーチェクラブ」にご入会いただきますと出演者のインタ ビューやその他の特集記事等、アクトシティで開催するイベントの情報が満載の「ビバーチェクラブニュース」のお届けほか特典がたくさんあります。詳しくはこちら。


ページのトップへ
公益財団法人 浜松文化振興財団 〒430-7790 静岡県浜松市中区板屋町111-1