--美空ひばりさんの役をお願いされたとき、どんな気持ちでしたか?
その瞬間は喜びました。でも、いざ決定してみると、それがまるで嘘のように怖くなりましたね。ひばりさんを子供の頃から見ていますから、どんなに偉大な方かということは知っています。同じ芸能界にいる人間にとっても、雲の上の方なんです。その方を演じるということのすごさ、責任というものを冷静になって考えたときに、ものすごく怖くなりました。精神的にも体力的にも大変なお仕事は、今までにもたくさんさせていただきましたけれども、足がすくむ怖さを実感したのは初めてでした。
--そういう怖さがあったにもかかわらず、出演を決意したのはなぜですか?
それは、やっぱり"栄誉"だと思います。芸能界の歴史の中でも偉大な方はたくさんいらっしゃいますが、まだみなさんの記憶に新しくて、今でもみなさんの中に生き続けていらっしゃるひばりさんを演じてくださいと言われたことの名誉、そして私のところに依頼がきたという巡り合わせ。これを無駄にしてはいけないという思いもありましたし、演じることを仕事としている人間として挑戦したいという気持ちになりました。もちろん、成功するかしないかはやってみなければわからないことですけれども…。
また、ひばりさんという存在を私たちの時代で終わらせたくないという思いもありました。ひばりさんを見たことのない若い世代の人たちに、私の体を通して、ひばりさんの仕事の面だけではなく、1人の女性としてどういう方だったのかを、生の舞台で見ていただけるいいチャンスですよね。私が次の世代への橋渡しの一端でも担えるのであれば、それはすごいことだと思いました。レコードやCD、映像ではなく、生身の人間が手の届きそうなところで演じているのを見てもらいたいんです。板の上に立っている人間だと、もしかしたら本物かもしれないって思っちゃいません? そういう生々しい体験をしていただきたいなと思います。
もう1つは、このお芝居が日本の芸能界で、定番になっていけばいいなと思いますね。これから50年後、100年後まで演じ続けられるような作品になっていく道筋になればいいと思っています。
--共演者の方と一緒に役作りをされますか?
今まで共演させていただいた林与一さん、南田洋子さん、雪村いづみさん、浜田光夫さん、淡路恵子さんも、ひばりさんと親しかった方たちなんですね。何かわからないことがあったときには、こちらからお伺いして、勉強させていただいています。自分の中にたくさんあるひばりさんの資料をもとに、ひばりさんだったらこういうときにこういう風に行動するんじゃないかなというのが、女優としての自分の演技のよりどころなんですけれども、そうやって私が無意識で演じていることがふっと形に出たときにね、「お嬢がよくそういう事をやっていたのよ。知ってたの?」って言われるんですけれど、もちろん知りません。そういう時には、ひばりさんが降りてきてるって、みなさん口をそろえておっしゃるんですよ。
--ひばりさんを演じていることの魅力は
フィナーレの時にたくさんの拍手をいただき、本当に気分良く楽屋に帰らせていただいたことは、今までにもありますけれど、この舞台では、ステージ上の私自身がお客様のかけ声や誠意、愛情で憧れのひばりさんのところへ運ばれているっていう感覚ですね。
ショウシーンでは、お客様に「ひばりちゃん」って声をかけられます。ひばりさんのコンサートと同じタイミング、同じ間合いで、同じコールなんです。最初の頃は、そのたびに「私はここにいていいの?」っていう気分になりました。お客様としては、舞台上にひばりさんを見ていらっしゃると思うんですね。それに対するかけ声ですから、得も言われぬ不思議な世界です。役者はお客様に夢を与える商売だって昔から言いますよね。でも、この作品に関しては全く逆で、お客様に夢の世界へ連れていっていただいてるって、私は言いたいです。怖さとすばらしさが紙一重という意味では、他の作品にはない魅力だと思いますね。
--浜松のお客様にメッセージを。
"今回の公演の見どころは?"と聞かれても、答えられないんです。全部が見どころですから。この作品は、ミュージカルでもあり、シリアスなお芝居でもあり、また、ひばりさんの実像に迫る映像もあったり、映画のワンシーンが見られたり、舞台の中でのショウシーンがあったりと大変欲張りな作品なんですね。ですから、ひばりさんが大好きな方はもちろんですが、ひばりさんを知らない方でも、ひとつの『美空ひばり物語』というエンターテイメントとして見ていただいても十分楽しめる作品です。それに共演者もスタッフもとにかく一生懸命ですから、その熱意も感じていただけると思います。緞帳が上がってから下りるまで一瞬たりとも目が離せない、自然に吸い寄せられちゃう作品だと思います。おまけで、「浅茅陽子の美空ひばり良かったね」って言ってくれれば最高にうれしいんですけど…。そうすると私はまた元気に頑張れるので(笑)。
それに、私にとって静岡は他人ではございません。清水市出身ということもありますが、あるテレビ番組で9年間、静岡県内を紹介させていただいたんです。その番組ではナレーションをしたり、年に3、4回くらい県内を廻ってレポートしたりしましたので、静岡県内はくまなく廻っています。浜松にも何度も行っていますよ。本当にいろいろな場所に行かせていただいて、豊かな体験をさせていただいた思い出深い土地です。そういう意味で、静岡には他とは違う気持ちを持っています。
その浜松で公演できるということは、私にとって無上の喜びです。自然と力が入ってしまいますね。みなさんが知り合いのような気がして、親近感が持てるんです。みなさんも同じように感じてくださっているようで、気軽に声をかけてくださるのがうれしいですね。ですから、浜松の方には是非楽しんでいただきたいと思います。
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