人里離れた森の奥に、お母さんゴブリンと子供ゴブリンが棲んでいました。
お母さんゴブリンは、おそろしいものがたくさんある森の外へは決して出てはいけないと言います。
子供ゴブリンはお母さんゴブリンの言いつけを守って森の外へは出ませんでした。
でもある日、森のはずれで赤いマントのようなものがひらひらと舞っているのを見つけた子供ゴブリンは、お母さんゴブリンの言いつけをすっかり忘れ、思わず追いかけていってしまいました。
夢中になって追いかけているうち、気がつけば森の外、しかもあたりは真っ暗です。
赤いマントはいつのまにかいなくなり、闇夜にほうほうと変な鳥の鳴き声も聞こえます。
子供ゴブリンはなきべそをかきながら、そばにあった茂みに隠れました。
どれくらい時間が経ったでしょう、突然目の前の沼が明るくなり、見たこともないような、きれいなもの、あやしいもの、ゆかいなもの、かなしいもの、ふしぎなもの、おそろしいもの、など、それはそれはいろいろなものが次々と現れては消えていきます。
心を奪われてそれらに魅入っていた子供ゴブリンですが、にわかに怖くなり隠れていた茂みから飛び出しました。 もう怖くて怖くてたまりません。
だって、うしろからなにかおそろしいものが追いかけてくるのです。
子供ゴブリンは泣きながら走りました。
そして、うしろにいるおそろしいものに追いつかれそうになったとき、森の入り口に立っているお母さんゴブリンが見えました。
お母さんゴブリンも気がついてこちらに向かって走ってきます。
「おかあさん!」
子供ゴブリンも懸命に走ります。
子供ゴブリンの目に映るお母さんゴブリンの姿がぐんぐんと大きくなっていきました。
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