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【チェリスト】長谷川 陽子


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4月18日、アクト・ワンコインコンサートに登場するのは、チェリストの長谷川陽子さん。
昨年11月に開催された第10回浜松国際ピアノコンクールの第3次予選室内楽奏者としてご協力いただいた感想から、コンサートの聴きどころや愛してやまないペットのことなど、お話を伺いました。
取材・撮影:(公財)浜松市文化振興財団

11月には浜松国際ピアノコンクールでの室内楽ご共演、ありがとうございました。

  こちらこそ。中ホールの響きがとても素晴らしかったです。また、浜松の駅に降りた瞬間、構内にピアノが展示されていたり、お土産品にも音楽をモチーフにしているものがあったり、ホールだけでなく街が一つになって盛り上げていると感じました。共演した出場者の方々も、全員が本選に行けそうなほどレベルが高いと思いました。ただ、1位になったトルコのチャクムルさん。あの方はちょっと違う星からやってきたみたいなところがあって、天真爛漫で素晴らしかったですね。

演奏者の個性は、音を合わせた瞬間に分かるものですか?

 ワンフレーズ弾いただけでも、だいたい分かりますね。どの人も大きな欠点というのは無いのですが、何が起こるか分からないワクワク感や、普通では起こりえないフレージング、ニュアンスなどは天から降ってくるものです。当人の努力はもちろんですが、それ以上のものを持っている人はキラッと光っています。言葉や演奏で示してくれるアイデアもそうですし、何よりこれから世に出ていく勢いがある。そういう才能に触れられたことに感謝しています。

チェロを始めたきっかけを教えてください。

 両親がクラシック好きで、父はアマチュアでヴァイオリン、母はピアノを弾いていて、音楽が日常的にある家庭で育ちました。一番身近なのが父と母だったので、こう言うといろんな方に怒られるんですが、ピアノとヴァイオリンって、大変な音しかしないと思っていて(笑)。
そんな頃、チェロの巨匠カザルスが亡くなって、食事の時などに父がカザルスのレコードを聴かせてくれた時、チェロってすごく良い音がするなと思って、やりたいと言い出したのがきっかけです。両親としてはまずピアノをやらせたいと5歳くらいからピアノを習いながらも、心のどこかにチェロという楽器がずっとあって、やっと9歳の時に買ってもらえました。
 実は私、指や手がすごく大きくて、鍵盤のドからファまで届いちゃうんです。この指でヴァイオリンを弾くとすごく窮屈だけど、チェロだとそれがちょうどいい。性格的にも、体格的にもチェロに向いてたのだと思います。

チェロは人の声に近い楽器とも言われますが、一番の魅力はどんなところだと思いますか?

 何と言っても、音域がものすごく広いことですね。
フラジオレット(※)まで入れるとヴァイオリンに匹敵するくらい高い音から低い音まで出せます。たとえば華やかにソリスティックに歌う事もできれば、おじいさんが訥々(とつとつ)と自分の人生を語るかの様な低くて深い音色、青年の艶やかな歌声や、赤ちゃんに聞かせるようなささやき声など、いろいろな音色を出すことができるんです。そういう意味で音色の「玉手箱」みたいな感じです。
※フラジオレット:弦楽器の特殊奏法で出る柔らかく高い音のこと。

今回のコンサートの聴きどころは?

 私が考えるチェロの魅力を全部ギュッと詰めこんだ濃縮版というか、いろんな面から見ていただける曲を披露できたらと思って選びました。特に、吉松隆さんの曲はデビュー30周年記念に書いていただいた曲です。カッチーニのアヴェ・マリアとアメイジング・グレイスという3曲連作の中の2曲を弾きますが、聴きなじみのあるメロディーの中にある懐かしさと新鮮さが共存する吉松さんならではのハーモニーを感じていただきたいです。

演奏していただくアクトシティ中ホールの印象はいかがでしょうか?

 とにかく美しい!それに、弾いた音が空気を通して天からシャワーのように戻ってくる感じがして、本当に素晴らしいホールだと思いました。チェロは、エンドピンを直にホールの床に刺して演奏するので、どの場所に刺すかによって床から音が響いてホール全体が鳴るかどうかが大きく影響します。いつもは、ゲネプロの時にその場所を探すのですが、コンクールの時は時間がありませんでした。今回は、一番のスイートスポットを探せるので、もっと素晴らしい音に出会えるんじゃないかなと今からとても楽しみにしています。

後進の指導もされていますが、若い演奏家にとって一番大切なのはどんなことでしょう?

 若い時は小難しい事はあまり考えず、とにかく全てのチャンスをつかむつもりでやっていけばいいと思います。でも、これが30~ 40代になって同じ曲を弾くようになった時が一番難しい。どれだけ興味を失わずにその曲に向き合えるか。弾くことに対して常に新鮮さ、ときめきを失わないこと。年齢を重ねても、自分の楽器や音楽にワクワク、ドキドキして恋していられるかどうか、愛情をもち続けられるかは、20代にどれだけ色々な事を吸収して、広い視野で曲や楽器に向き合って過ごしたかが関わってくると思います。

今はネット環境が充実して、世界中のありとあらゆる音楽が瞬時に手に入ったり動画などで簡単に見られる時代ですが、どのようにお考えになりますか?

 実際、便利だし参考にすることもあります。ただ、現代の動画配信サイトには、素晴らしいものもアップされていると同時に、そうでないものもたくさんある。色々なものがありすぎて良いものに触れる時間が減ってしまうのがもったいないですね。しかも、一定以上のレベルの作品が揃うCDショップと違って、それこそ幼児が演奏する映像なんかも出てきてしまう。耳というのは良いものを常に聴いて育てていくことが大事。若い演奏家たちにも言っていますが、自分の下手な演奏を聴くのではなく、常に素晴らしい演奏を耳にインプットして、自分との違いを
判断できる耳をもってほしいと思うのです。それに、動画を見ている環境では、隣で犬が鳴く声や台所でお湯が沸く音、トラックが道を走る音なんかが聞こえて気持ちが寸断されてしまいます。1曲目から最後の曲まで気持ちが高調していくひとつの特別な盛り上がりは、実際にコンサート会場に足を運んでこそ感じるものですよね。

音楽以外の趣味や凝っていることは?

 猫ちゃん2匹と住んでもう数年になります。この子たちのためなら何でも頑張れる!ってくらい愛しています。猫は欲求が本当にシンプルなので、あの清らかさに触れていられるだけでリフレッシュになりますね。しかも、そのうちスバルという猫は、音楽が分かるんです。私が譜読み段階であんまり上手じゃない時には、練習室から一番遠いところで寝ているのに、少しずつ弾けるようになってくるとだんだん練習室の扉に近づいてきて。それで、いよいよ明日本番って思いながら扉をガチャっと開けると、扉のすぐ目の前で聴いているんですよ!私の生徒さんたちも自宅でレッスンするのですが、扉を開けた時スバル先生がそこにいらっしゃるかどうか…戦々恐々としています(笑)。もう一匹のレオンくんは、音楽より食欲ですね。あとは、最近購入した新しい自転車で、楽器がない時はどこにでも走っていきます。弾く筋肉は使っていますが、そうでない筋肉もあるので体力維持のために、と思ってやっています。この前は浅草まで2時間くらい走りました!

ご自身の人生に影響を与えた方を教えてください。

 第一に、9歳から18歳までチェロの手ほどきを受けた井上頼豊先生。最初は楽器の持ち方から演奏技術まで教わりましたが、演奏家への敬意のはらい方や演奏会へ向けてどのように準備を重ねていくべきかなど、演奏家としてご自身が実践している姿を間近で見ることができました。弾くこと以外の精神性を井上先生から学べたことが今となっては一番大きかったです。それから、演奏家としても人間としても憧れるのは、やはりヨーヨー・マです。
演奏も世界最高だと思いますが、人種を越えて平和の架け橋になれる、人間としてのキャパシティの広さを感じて尊敬できますね。学生時代には何度かマスタークラスを受講しましたし、その後も何回かお会いすることができました。

最近の音楽界で、魅力的だなと思う方や共演してみたい方は?

 年上の方は、幸い共演する機会に恵まれてきたので、若い人達とも共演していきたいです。例えば、ヴァイオリンの木嶋真優さん。エネルギッシュさが魅力的だと思います。若手チェリストは最近層が厚くて、魅力的な方がたくさんいます。宮田大さんや、遠藤真理さんも素晴らしいと思うし、岡本侑也さんはあの年齢とは思えない落ち着きがありますね。非常に理知的な演奏なので、これからが楽しみです。

これからの目標や夢について教えてください。

 ひとつひとつのことに全身全霊で向き合っていくために、体調を整え、精神状態もコンサートをピークに持っていくことを続けていきたいです。それを積み重ねていくことで、その先に具体的な目標が見えてくると思っています。
2022年のデビュー35周年の時には、チェリストとして、またチェロ音楽には欠くことのできないロシアの作曲家作品を集めたコンサートをしたいと思っています。

最後に、お客様へメッセージをお願いします。

 昨年訪れた浜松は、大好きな街になりました。
皆さんにお目にかかることを今から楽しみにしています。前回は訪れることができなかった浜松市楽器博物館にも、今回はぜひ行ってみたいですね。当日は、たくさんのチェロの魅力、こんなこともできるの?というところをお見せしたいと思いますので、ぜひ足をお運びください。

アクト ワンコインコンサート2019
長谷川 陽子 チェロ・リサイタル

2019年4月18日(木) 11:30開演 
●アクトシティ浜松 中ホール
●入場料(全席自由)
 500円(チケットレス・当日会場でお支払いください。)
 ※未就学児の入場不可

公演の詳細は、こちらをご覧ください。