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【ピアニスト】ラファウ・ブレハッチ


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2017年10月4日開催 アクト・プレミアム・シリーズ2017
【ピアニスト】ラファウ・ブレハッチ

第15回ショパン国際ピアノコンクールの覇者であり、
第5回浜松国際ピアノコンクール最高位受賞のラファウ・ブレハッチが10月4日、11年ぶりの浜松凱旋公演を行います。
ブレハッチさんに浜松での思い出やプログラムについてお話を伺いました。

10年ぶりとなる浜松公演。思い出深い町だと思いますが‥‥

第5回浜松国際ピアノコンクール本選の様子

私が生涯で初めて滞在した日本の町が浜松です。
2003年の浜松国際ピアノコンクールでの演奏が日本の皆さんとのファーストコンタクトでした。その後2004年、2006年と訪ねています。
今年、また浜松に戻れると思うととても嬉しいです。

その時の印象を覚えていますか?

アクトシティ浜松ショパンの丘にある「ショパン像」

覚えているのは‥‥本当に素晴らしい記憶です。
宿泊したホテルの部屋の窓からショパンの像が見えたことです。
ワルシャワにある彼の像とまったく同じだ、と思いました。異国の地日本で、ショパンの姿に再会したという思いです。
感動的でした。それから聴衆の皆さんがとても心暖かかったこと。
日本には最初からとても良い印象を持っているのです。

これまでの来日で、お好きな日本食はありますか?

味噌汁、しゃぶしゃぶは大好物です。私だけでなく、家族もみんな、しゃぶしゃぶは大好きです。
母と妹はお寿司も大好きで2006年に東京、浜松でよくいただきました。

ポーランドにはお魚を生で食べる習慣はあるのですか?

都市部の日本食レストラン以外では、地元では生のお魚は食べないのです。
私たちにとって日本食はちょっとエキゾチックですね。でも好きです。

10月のプログラムについて伺います。バッハの「4つのデュエット」、
これは2月にリリースされたばかりのCDに入っていますね。

やっと、バッハの曲のみで構成したCDで、大きな喜びを感じます。私にとってこの上なく重要な作曲家なので‥‥私の音楽の勉強のスタート地点、それがヨハン=ゼバスティアン・バッハのさまざまな楽曲でした。オルガン曲に魅了されたことがすべての始まりです。5歳か6歳の頃、私はオルガニストになろうと思っていました。

教会にお祈りに通いながら、そう思ったのですか?

毎週日曜日にミサに参加していますが、そこでオルガンの音を聴き、両親の知り合いだった教会のオルガニストにお願いして、あるとき興味本位で弾いてみたのです。とても楽しかったですが‥‥なんというか、あの鳴り響く音の魅力…陶酔するような感覚は非常に大切なものでした。ピアノでバッハを演奏するとき、大切にしているのはあのオルガンの音の記憶なのです。今回のプログラムの最初に「4つのデュエット」をお聴きいただくのは、この最新のCDの世界に皆さんをお招きするためです。

あの典雅でありながらどこかミステリアスな導入部分を、
ブレハッチさんの奏法で聴けると思うと、楽しみですね。

バッハの楽曲にはいつもどこかミステリアスな空気があります。なにか宗教的な空気でもある。
ぜひ、それを感じてください。

ところで、ブレハッチさんにとってバッハのCD録音は初めてですよね?

ⒸMarco Borggreve

2005年のショパンコンクールのあと、ドイツ・グラモフォンでの最初の録音をバッハにしたいと考えていましたが、やはりショパンコンクールで優勝したわけですから、まずはショパンで、ということで「24のプレリュード」にしたのです。バッハを録音するまで少し辛抱しました。でも結果は、それで良かったと思っています。

その間にドビュッシー、シマノフスキなどは録音されましたが、
バッハに関しては、かなり長く待ちましたね。

皆さんをお待たせしてしまいました(笑)。けれども、それが良かったと信じています。
その間に、これほどすばらしいバッハの楽曲を何度も演奏会で弾いてみて、違う音響効果、違うピアノ、いろいろ経験し、
今回の録音に備えることができました。レコーディングのためにスタジオ入りする前に十分な準備ができたのです。

バッハの同時代の鍵盤楽器はオルガンかハープシコードで、ピアノはまだ普及していませんでした。
現代のピアノでそれらの曲を弾くとき、注意される点はありますか。

オルガン曲とピアノ曲の間には、いくつか特殊なつながりがあります。特にバッハについて言えば、私はピアノで弾くときにもオルガン式のレガートを用います。私はオルガンの基礎があるおかげで、純粋なピアノ奏法とは少し違うレガートを使いこなすことができます。もしピアノ奏法だけならば、レガートにしたければ右の足のペダルを使いますが、たとえばこのペダルの助けを借りなくても手の指だけで表せるレガートがあります。これは、オルガンを弾くときの手の使い方なのです。バッハの曲では、この奏法を使うことができる・・・いえ、使わなければならない場合があります。フィンガー・レガートと呼ぶとしましょう。フィンガー・レガートにより、音どうしのつながりが、よりかっちりと明るくなります。バロック式になるのです。ピアノで弾く前に、オルガンで同じ曲を弾いてみるという経験は、助けになります。

バッハ、ベートーヴェン、ショパンという今回のラインナップのなかで、
いちばん苦労しそうな曲はどれですか?

難しいご質問です。今回お聴きいただく「ピアノ・ソナタ第3番作品2の3」は、疑う余地なく素晴らしいソナタで、「ロンド ト長調作品51の2」と合わせて、古典派奏法の良さをお伝えできれば、と思います。前半のベートーヴェンと後半のショパン、それぞれのピアノ・ソナタに対するアプローチの違いに興味を感じてくださるのではと期待しています。スタイル、ハーモニー、様々な角度から違いを意識して味わうことができます。皆さんのご理解を助けられるかどうかが私の課題です。

2005年のショパンコンクール優勝により、ブレハッチさんの印象は音楽ファンにとって「ショパンの達人」ともなっています。
ショパン探求に関して、コンクール後の12年間で感じるご自身の進化はありますか?

進化…そう捉えると、いま自分は正に進化の最中だと思います。作曲家と常に対話をしている感覚、と言えばいいでしょうか、彼が何を感じているのか、なぜ心が揺れているのか、ということを、音を通して受け止めていくようなプロセスです。今回演奏する「ピアノ・ソナタ第2番」は2年ほど前から本格的な準備を始めました。作曲家の感動や意図を理解でき、それを生き生きと再現できるか。そこに不自然さが生じないように、私自身の直感、人格や経験、場合によっては冒険を織り込んでゆく。この作業はショパンに限らず、全ての曲に同じように対峙しているつもりです。

ショパン自身は39歳で夭折しており、いわば彼の晩年と近い年齢のブレハッチさん。
ご自身の年齢的な成熟がもたらす変化はありますか?

ⒸMarco Borggreve

年齢的な要素は大切ですが、最も大事なのはセンシビリティ、理解力そのものではないでしょうか。もちろん、同じ曲を繰り返しステージで演奏することにより理解が生じることもあります。例えば私の場合、10年前にショパンの「幻想ポロネーズ」を演奏し、しばらく後の2010年にも演奏した時に興味が目覚めた点がいくつかあり、以前とは異なる奏法にしたのです。そういった変化が起こることは素晴らしいと思いますし、演奏家が年齢を重ねることで、聴衆にその変化をお見せできることは、大きな喜びですね。

いずれ教師としての仕事やコンクールの審査員などに興味はありますか?

教師というのは責任の大きい仕事です。現在の私には残念ながら時間がありません。自身の演奏のために集中力のほとんどを注ぎ込まなければなりませんので。マスタークラスの形でなら可能かもしれませんが、音楽院の教師職は現状無理ですね。コンクールの審査員という仕事も、実はそのための技能を要求される職務です。また長い期間拘束されるので、事実上練習ができなくなってしまいます。将来的には決して興味のないことではありませんが、少し先の話になりそうです。

音楽と並行して哲学のお勉強を続けていらっしゃるそうですね。

音楽表現に関する哲学を精力的に勉強しています。5月にはポーランドの大学で、哲学を専門とする学生の方200名と教授50名ほどで、ある議題について討論を行ったところです。
私は、ステージに設えたピアノでバッハの楽曲の部分をいくつか演奏し、実例を示して議論に参加しました。宗教的概念・思想の抽象的表現について語る場だったのです。学位論文をすでに書き終えて、まもなく最終試験を受けることになります。
とはいえ、心の中にあるものを言葉で表すより、ピアノの音に乗せて表すほうが、よりしっくりくるのです。私たちの人生の、瞬間瞬間の経験や感覚は実に多様です。それらを余すところなく表現することができれば、と希(ねが)います。

ブレハッチさんを尊敬する日本の若者にアドバイスをいただけますか。

2005年のワルシャワでのコンクール以降、生活のバランスを保つことにとても気をつけています。
今でもコンサート活動が過剰にならないよう年間で50回程度に抑えています。当たり前に生活して人間として成長する時間、そして時には休養の時間を切り詰めないように。家族や友人と過ごす時間も人生にはとても大切なものです。
そうやってバランスを保つことで、どのような曲と向かい合う場合も、きっとその曲により近づくことができるようになりますよ。

最後に、お知らせがあります。日本で最近出版された、ピアノコンクールをテーマにした「蜜蜂と遠雷」という小説が、国内の主要な文学賞を二つ受賞しました。作家の恩田陸さんは浜松国際ピアノコンクールを取材され、ブレハッチさんの最高位受賞、その後のショパンコンクール制覇の流れにインスパイアされた、とおっしゃっています。
私たちはこの小説がきっかけとなり、より音楽ファンの層が広がることを期待しています。

それは知りませんでした。お知らせ、ありがとうございます。良いニュース、嬉しいニュースですね。
作者の方について、私も調べてみます。

再会を楽しみにしています。それまでどうぞお体にお気をつけて。

私も、皆さんとの再会が待ち遠しいです。良い演奏をいたします。
それでは、10月に。

アクト・プレミアム・シリーズ2017
ラファウ・ブレハッチ(ピアノ)

2005年第15回ショパン国際ピアノコンクールの覇者ラファウ・ブレハッチ、第5回浜松国際ピアノコンクール最高位受賞以来、11年ぶりの浜松凱旋公演!

2017年10月4日(水) 19:00開演 
●アクトシティ浜松 中ホール
●入場料(全席指定)
  S席 6,000円 A席 5,000円
  学生 1,000円(24歳以下)


公演の詳細は、こちらをご覧ください。