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【指揮者】佐渡 裕


©飯島 隆

2022年5月25日に登場するのは、佐渡裕さん率いる創立50年を迎える新日本フィルハーモニー交響楽団(以下、新日本フィル)。ソリストは昨年のショパン国際ピアノコンクールで第2位を受賞した時の人、反田恭平さんです。このたび新日本フィルのミュージック・アドバイザー、来年4月には音楽監督に就任される佐渡裕さんにインタビューを行いました。

(2022年2月13日 zoomインタビュー 協力:(株)クリスタル・アーツ)

過去に訪れた浜松での公演の印象を教えてください。

 浜松は交通の便が良いのであまり泊まらないのですが、9年前にBBCフィルと来た時はみんなで宴会をした思い出がありますね。他にもドイツ室内管弦楽団やアマチュアオケの全国大会、兵庫のオーケストラなど様々なコンサートで来ています。浜松は吹奏楽が盛んですし、ピアニストもたくさん育っていますよね。ヤマハ・カワイなどがあって、音楽文化を支えてくれている街だなという印象があります。

新日本フィルハーモニー交響楽団とのご縁や抱負などお聞かせください。

©MBS/サントリー1万人の第九

 最初に知ったのは、『オーケストラがやってきた』というテレビ番組。山本直純さんや小澤征爾さんにあこがれて、小学校の卒業文集に「大人になったらベルリン・フィルの指揮者になる」と書いたのを覚えています。中学に上がるとレコードを買っては演奏会に足を運び、大学生になると夜行バスに乗って小澤征爾指揮/新日本フィルの定期演奏会を聴きに行ったものです。
 1987年26歳のときにタングルウッド音楽祭のオーディションに通り、直接小澤先生に出会うことができましたが、その翌年には無名だった私を新日本フィルに招いてくれました。現在までにもう100回近く指揮をしていますが、92~95年の指揮者時代から、30年後に音楽監督を引き受けることになるとは夢にも思わず、小澤先生、新日本フィルとの出会いは私の人生で最も大きな転機でした。
 私がまず新日本フィルとやるべきことは、『オーケストラが…』のように、オケを身近に感じてもらうこと。墨田区はすみだトリフォニーホールを本拠地とする新日本フィルがあり、まち・劇場・オーケストラが音楽文化の中心になっています。心豊かな街づくりを担う日本を代表するオーケストラとして、世界にもその存在意義を示せるよう活動していきたいです。
                    

ミュージック・アドバイザー、音楽監督とは具体的にはどんなお仕事なのでしょうか?

 音楽監督は、定期演奏会の指揮はもちろん、楽団の目指す方向性、年間のプログラム選曲や客演指揮者、ソリストの配置など、芸術面すべての責任を負います。メンバーのオーディションなどにも関わり、コンサートマスターと共により良い音作りを目指します。他にもオーケストラの「顔」として広報活動、地域へのアウトリーチ、支援者との交流など、日本と海外では「音楽監督」の位置付けが少し異なることもありますが、簡単に言えば雇われ社長のような感じでしょうか(笑)? ミュージック・アドバイザーは、明確な仕事があるわけではないのですが、すでに音楽監督就任前から楽団と頻繁に会議をしたり、メンバーと話し合ったりしています。
        

「1万人の第九」の指揮や、『題名のない音楽会』の司会など、分かりやすくクラシック音楽を届けてくれる佐渡さん。「広く伝える」ことで心掛けていることはありますか?

タングルウッド音楽祭(1987年)
バーンスタインと

 実は、バーンスタインと最初に出会った後、彼が知り合いに僕のことを語った言葉があって。「おもしろい日本人に出会った。今はまだジャガイモのような奴だ。泥汚れがついているが、汚れが取れたときに世界中の人が毎日食べるジャガイモのように毎日聴くような音楽を彼は作るだろう」と。指揮者としての目標はいろいろありますが、特に日本では、1人でも多くの人にオーケストラのすごさやクラシック音楽の素晴らしさを伝えることが、僕にとって一番大きなミッションだと思っています。交響曲は演奏している音楽家だけのものじゃない。もっとこのおもしろさ、演奏会の喜び、ベートーヴェンの交響曲最終楽章の高揚感を人々に伝えるために、ひとつの「縁」を作らなきゃいけない。例えばおじいちゃんが家でレコードをかけてたとか、彼女が演奏会に連れて行ってくれた、そんなきっかけでクラシックが好きになる人はいても、生のオーケストラを聴いたことが無い人が大半。まだまだ日本の音楽会は変わらなきゃいけないんです。今は刺激のあるものがたくさんあって難しい面もありますが、例えば名画が「なぜ名画なのか」を案内できるガイドが必要なように、音楽にも「オーケストラがなぜおもしろいのか」「名曲がなぜおもしろいのか」を説明して、生で体験してもらうという道順を僕は常に考えています。
 ヨーロッパで仕事を始めた頃は次の世代のために…なんて余裕はありませんでしたが、50歳を過ぎて「一万人の第九」や『題名のない音楽会』を経験し、「阪神淡路大震災から心の復興のシンボル」兵庫県立芸術文化センターの活動などを通して、音楽やオーケストラをやることが心を豊かにするもの、血のつながりもない人たちが集まって共振することの大切さ、人を励ましたり一緒に生きていることを嬉しいと思える尊さ、そこまで意識が向くようになりました。60歳になりましたが、自分にもその番が回ってきたと思っています。
              

コロナ禍では、劇場に行かずにオンラインで楽しめるコンサートも多くなりました。オンラインのコンサートとホールの大空間で聴くコンサート、それぞれの魅力や未来について、どうお考えですか?

 音楽を鑑賞するということに関して圧倒的に素晴らしさを体感できるのは、やはり生演奏だと思っています。会場の空間で、目の前の空気が振動することを実際に肌で感じて感動する。このことは、ライブ配信などの方法が飛躍的に進化したからこそ、改めて実感した部分もあります。演奏する側も、目の前にお客様がいて、拍手をいただけるありがたみや、聴いてくださる方がいるからこそ演奏が完成することも再認識しました。もちろん、オンラインの手法が身近になり、配信した映像と一緒に歌や楽器を演奏するプロジェクトを通して、音楽の力で人が繋がれるということも体験しました。けれど、ちょっとおしゃれして、コンサートホールという空間に足を踏み入れる…そんな少し敷居をまたぐような経験も演奏会の醍醐味です。特にアクトシティのようなクラシック専門のホールでオーケストラを聴くことは、音の神殿に足を踏み入れるような特別な経験ですし、知らない人どうしが同じ空間で、その空気と音を一緒に体感する魅力はずっと伝えていきたいと思います。
            
                     

今回の聴きどころを教えていただけますか?

 ピアノ協奏曲第5番「皇帝」と交響曲第7番は、どちらも圧倒的な名曲です。交響曲第7番は僕がバーンスタインのアシスタントをしていた1989年、ドイツの演奏旅行に同行した時の思い出のプログラム。公演後にドイツの首相などの面会を待たせてレッスンしてもらったのですが「お前のデビューはこれだ」と言われ、ブザンソンの指揮者コンクール優勝後、日本での凱旋公演で新日本フィルと演奏しました。この曲は「びっくりシンフォニー」と言われていて、最初からオーケストラ全員で突然宇宙に飛び出したような音から始まります。2楽章も静かだけど重いショックから始まり葬送行進曲が始まっていく。3楽章は動きのあるスケルツォという3拍子で人をワッと驚かす。4楽章は熱狂的な乱舞で踊りの要素があるなど、ベートーヴェンは即興演奏が素晴らしい。『のだめカンタービレ』でも有名になりましたし、「運命」や「田園」、「第九」に並んでなじみのある曲です。ジェットコースターみたいに進みますが、リズムが激しいだけでなくイタリア的な解放感もあるし、田舎の牧歌的な部分もあるし、何回やってもドキドキする曲です。
 「皇帝」は5つあるピアノ協奏曲の中ではピアニストにも労力のかかる大曲。しかも変ホ長調は神やヒーローを表す特徴的な調性。絵画などでも金色が特別な意味を表すように、作曲家がこの調を使うことは特別な意味があります。「皇帝」というタイトルですが、「神々しい音」という言い方が一番ピンと来ますね。特に1楽章から2楽章に移る瞬間は、魔法のじゅうたんに乗るみたいな浮遊感を感じるので僕は一番好きです。
              

ピアニスト反田恭平さんとの共演も楽しみです。

2020年10月トーンキュンストラー管とのリハーサル @ウィーン楽友協会

 彼は技術的にも本当に素晴らしく、心配することが何もありません。それでいて毎回新しいものを生み出す興奮、熱狂、新鮮さを失わない。
協奏曲の経験もあまりない若い頃からオーケストラとのキャッチボールがしっかりできましたね。インタビューで「ぜんぜん練習していない。努力していない。」とか言ってますが絶対ウソです(笑)。ものすごく練習してると思う。自分で楽団・会社を作ったりレコーディングレーベルを作ったり、本当に感心します。僕が30・40代の頃、そんな余裕はなかったのに、20代の彼がすでにそんなことをやっている。「自分の学校を創りたい」という目標も彼は実現するでしょう。息子ぐらいの年の差ですけれど、人間性はとても尊敬できますね。

プライベートでも交流があるそうですね。

 ウィーンの家に招いて僕が手料理をふるまったり、ツアーで一緒に焼肉を食べたり。LINEのやり取りもします。実は彼は指揮がしたいんですよね。コンクールに入賞してからも取材で話していましたが、僕は「やめとけ」と言っているんです(笑)。何の曲かは忘れましたが、以前、彼が指揮をするという話があり、ちょっとヒントを送ったら「めちゃくちゃ勉強になりました」と言っていました。
 性格もお互い負けず嫌いだし、おもしろいですよ。このあいだ二人で雑誌の写真撮影をしたとき、カメラマンが「何か話してください」と言うので、反田くんが「しりとりやりましょう」と。そうしたら、先に「ロープ」と言い始めて、そのあと最後の一文字をぜんぶ「プ」にしてきて…「プ」なんて言葉、そんなにたくさんないのに!最初の1手から考えてたんだよね。もうかわいいというか、なんというか(笑)。
                    

最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

 新日本フィルのミュージックアドバイザー就任後初のツアーになりますので、オーケストラとの新たな関係づくりに僕自身がわくわくしています。ピアニストの反田くんとは長い付き合いなので、安心してベートーヴェンの世界を創り上げていける自信があります。王道のプログラム2曲の素晴らしさ、そして新日本フィルとのコンビネーションを初めてお見せする全国ツアーになりますから、期待していてください!
                  

大和証券グループ presents 佐渡 裕(指揮) / 反田 恭平(ピアノ)
新日本フィルハーモニー交響楽団50周年記念演奏会

2022年5月25日(水) 19:00開演 
アクトシティ浜松 大ホール
 【チケット完売】
 ※未就学児の入場はご遠慮ください。

公演の詳細は、こちらをご覧ください。