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トップページ >  インタビューノート  >  【歌舞伎俳優】中村 鴈治郎

【歌舞伎俳優】中村 鴈治郎


9月5日、毎年恒例の松竹大歌舞伎公演にご出演の中村鴈治郎さん。実弟の中村扇雀さん、
テレビなどでおなじみの尾上松也さんなど豪華な顔ぶれでアクトシティ浜松にお目見えと
なります。歌舞伎座で公演中の中村鴈治郎さんに見どころなどをお聞きしました。
取材・撮影:(公財)浜松市文化振興財団

浜松には何度かお見えいただいていますね。

 昔の浜松市民会館(浜松市教育文化会館:はまホール)には何回も来ています。当時はそこの近くのホテルによく泊まりまして、必ず宴会が
ありました。酔っぱらって池に飛び込んだことがあります(笑)。アクトシティ浜松が完成して最初の『松竹大歌舞伎』(平成7年)にも行きました。

浜松にはどのような印象をお持ちですか?

 浜松といったらやはりうなぎでしょうか。あと、餃子が有名ってよく聞きますね。
でも浜松ではうなぎも餃子も食べたことが無いんです。

今回の演目の見どころを教えてください。

 『玩辞楼十二曲の内』、これはいわゆる初代鴈治郎が得意だった芝居が12個あるということ。
「歌舞伎十八番」っていうのが有名ですが、これは市川團十郎家が得意とする18個の芝居という意味です。今回は初代鴈治郎が得意とした演目『封印切』、つまり鴈治郎家のお家芸をやらせていただきます。人のお金を預かっている飛脚屋は、お金の封を切ったら駄目ですよね。それなのにその封印を切ってしまって悲劇が起こるわけです。どんどん悪い方向へ行き、それによって恋人である梅川と死ななくてはならないような。初めは浮かれて会いに来ているのに、最後は悲劇になって終わるという話です。
 『蜘蛛絲梓弦』は一人が何役もやる早変わりを、常磐津にのってやる舞踊劇です。これもうちの父が得意としたもので扇雀が演じます。一人で色々な役をこなすという、同じ人だけど違う役を演じ分けるというところが見どころです。最後に蜘蛛の糸がバーッと出る派手な演出は見ていて面白いと思いますよ。

歌舞伎を習い始めた頃の思い出はありますか?

 うちは歌舞伎役者としては初舞台が遅いんです。幼稚園のうちは大人の世界に入れたくないという親の方針で、弟が6歳になるのを待って8歳で初舞台。その後も学業優先で普通の学生生活を送り、いざ就職という時に「役者」というレールがあったのでそこに乗ったのです。子役時代もほとんど出演せず、大学時代に年3回位の出演で稽古もしていなかったので、いざ入ってみるとセリフ一つ言えないし動けない…同年代の人との違いを感じましたね。その時初めて「これはダメだ」と、20歳になってから三味線と鳴物の稽古に行きました。
 20代は若手として売れ出す頃ですが、私にはありませんでした。その頃、父が近松座を始めたのですが、自分で役を作り込んでいくことを基礎もできていない人間ができるわけがなく難しかったですね。その経験のおかげで色々な考え方ができるようになったのかもしれません。

今年還暦を迎えられましたが、節目のようなものは感じますか?

 60歳は役者としてはまだこれからです。スタートが遅かったので最初のうち不安はありましたが、歌舞伎は70、80歳でも続けられる職業。10年のブランクがあっても大丈夫だと続けてきました。節目と言っても特別なことは何もないですね。

お休みの時はどのように過ごしていますか?

 海外にでも行ければ一番嬉しいですね。スキューバダイビングが好きなので、時間があれば海に行きたくなります。長男の壱太郎が生まれる時にダイビングの免許を取ってから、ハワイや沖縄など何度も潜りに行っています。壱太郎も免許を取ったので、この前初めて一緒に潜りましたね。それから、野球の中日ドラゴンズが大好きです。これは話すと長いですよ(笑)。

誰か好きな選手がいらっしゃるのですか?

 稲尾和久という選手が福岡、西鉄ライオンズにいたでしょ。歌舞伎の公演で父と祖父が九州のデパート関係を回っていた頃、紹介されたのが稲尾さん。親父の事を気に入ってくれて、よく家に来ていたらしいです。父親とキャッチボールをした記憶はないけど、誰かとキャッチボールをした覚えがあるなと思ったら、それが稲尾さんでした。名古屋で初めて御園座に出演する時、稲尾さんが、偶然中日ドラゴンズの投手コーチをしていて。「久しぶり!でかくなったな」って色々なところに連れていかれて毎晩のように話を聞かされていたらいつの間にか応援するようになりました。
先日、初めてドラゴンズの沖縄キャンプを見に行けて嬉しかったですね。

今回共演される尾上松也さんなど、テレビでも活躍する若手歌舞伎役者さんが増えてきています。ファンを増やしていくためには何が必要だと思われますか?

 一番は開演時間の変更ですね。海外へ行けば夜仕事が終わってから見るのは当たり前です。平日の夜など、仕事をしている人が見るにはどうしたらよいか考えなくてはいけません。昔の巡業は終わってからすぐに移動するので、17時半や18時開演ということができませんでしたが、最近は夜の部は遅い時間に公演するようになりました。
 前の東京オリンピックの時、私は小学1年生だったので覚えていないのですが、外国の方に歌舞伎を見ていただくため、夜の公演があったそうです。来年のオリンピックでも同じようになると思います。最近発表された競技時間を見ると、朝から夜遅くまで競技がありますよね。真夏だから昼間の暑い時間帯は競技が少なくなる、ということは例えばオリンピックの競技時間が3部制(午前、昼、夜間)くらいになっているところに、歌舞伎公演の開演時間をうまく合わせれば、見てもらえるということ。それに、僕らも海外に行って何か見るとき、初めからそのつもりならいいけれど、観光の途中でちょっと寄りたいくらいだと長時間かかるものは諦めますよね。歌舞伎座で気軽に入れる幕見席がよく売れるのが良い例で、公演時間についても考えていきたいですね。
 歌舞伎に興味を持ってもらうことに関しては色々なメディアに出て人の目に触れること、顔が売れるというのはとても大切だと思います。2,000人の劇場を昼夜公演で1か月間満席にし続けても、テレビの視聴率1%にはとてもかないませんから。テレビなどで「あの人、歌舞伎役者だったんだ」と知って劇場に足を運んでくれることは良いことだと思います。

初めて歌舞伎を見る方に何かおすすめはありますか?

 ぜひ、イヤホンガイドを利用してください!開演前からずっと何か話してくれていて解説や見どころなどを聴けますし、楽しめるはずです。それから、勉強だとか教養だとか思わないで楽しんでほしいですね。公演を見て「この役者、おもしろい」と思ったら、その役者を追いかけてくださっても良いんです。歌舞伎は、あくまでも娯楽であって嗜好品。お客様に喜んでもらうために僕らは演じています。そういう意味ではその敷居を外していただきたいですね。例えば「今度見に来てください」って言ったら「じゃあ勉強してから伺います」ではなくて、映画を見るつもりで見に来てくださるのが一番嬉しいですね。

最後に、地方巡業を楽しみにしているお客様へ一言お願いします。

 夏の暑いときですが、毎日公演地を移動しながら頑張ります。色々な街へ行けるのは楽しいものです。あとは台風がないことを祈っています。
それから、うなぎと餃子の差し入れもお待ちしています(笑)。

令和元年度 公文協西コース
松竹大歌舞伎

2019年9月5日(木) 昼の部13:00/夜の部17:30
●アクトシティ浜松 大ホール
●入場料(全席指定)
 一等席 6,500円 二等席 5,500円
 夜の部幕見席 3,000円(当日指定)
 学生席 1,000円(当日指定)
●出演 中村鴈治郎
    中村扇雀 市川高麗蔵 尾上松也 ほか

公演の詳細は、こちらをご覧ください。